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人工知能と私たちの未来

アニメ「鉄腕アトム」がテレビに初めて登場したのは1963年(昭和38年)のこと。第一作は平均視聴率が30%を超える人気番組となり、子どもたちはロボットが活躍する未来に胸をときめかせたものです。あれから半世紀、今や機械がアトムのような優れた知能を持つことは夢物語ではなくなってきたようです。人工知能はどこまで人間らしくなれるのか? 知能を持ったロボットは人間とうまく共存できるのか? 今回はもはやSFではなくなりつつある人工知能について考えてみました。

人工知能とは

人工知能とは何でしょう。辞書には「学習・推論・判断といった人間の知能のもつ機能を備えたコンピュータシステム」(大辞林/三省堂)とあります。英語ではArtificial Intelligence、略して「AI」などとも呼ばれています。
一般社団法人「人工知能学会」のサイトには人工知能の歴史が紹介されています。それによると「AI」という言葉が初めて世に出たのは1956年のこと。「ダートマス会議」という専門家の研究会で、ジョン・マッカーシーという人物が提唱したそうです。
ただし、物語の世界ではもっと以前から人工知能を持つロボットの誕生は予測されていました。たとえばライマン・フランク・ボームが1907年に書いた「オズのオズマ姫」には、「チクタク」という名の機械仕掛けの人間が登場します。また、チェコの劇作家カレル・チャペックは1920年に「R.U.R.(ロッサム万能ロボット会社)」という戯曲を発表し、自分で考えて動くロボットを登場させています。ちなみにロボットという言葉が登場したのは、この戯曲が初めてだといわれています。

人工知能の実力

さて、コンピューターが進歩した現在、人工知能はどれくらいの実力を持っているのでしょうか。
実はAIの進化を象徴するような出来事が、今から4年前、2011年に起きていました。アメリカの「ジェパディ!」というクイズ番組で、IBMの人工知能「ワトソン」と全米クイズチャンピオンが対戦し、人工知能が勝利を収めたのです。この話題は"コンピューターが人間を打ち負かした"ということで世界中に広がり、大きなニュースになりました。
「ジェパディ!」のクイズ形式は、出題者が問題を読みあげ、それに対して早押しで解答するというもの。IBMの創業者の名を冠した「ワトソン」は、書籍約100万冊分のデータを取り込み、出題の文脈を読み取って内容を理解し、膨大なデータの中から適切な回答を選び出し、クイズチャンピオンに勝利したそうです。
また、チェスの世界では1997年に、IBMの「ディープ・ブルー」というコンピューターが、ガルリ・カスパロフという世界チャンピオンに勝利しました。日本でも2012年に「将棋電脳戦」が行われ、「ボンクラーズ」という将棋ソフトが米長邦雄永世棋聖を打ち負かしています。今や人工知能の思考力は、プロの天才たちをも脅かす域にまで到達しているのです。

ホーキング博士の警鐘

2014年12月2日、物理学者のスティーブンホーキング博士がイギリスBBCのインタビューに答え、次のように述べました。「われわれがすでに手にしている原始的な人工知能は極めて有用だが、完全な人工知能の開発は人類の終わりをもたらす可能性がある」と。人工知能がひとたび知性を持てば、それは加速度的に自らを再設計し、人間など足元にも及ばぬほど進化してしまうだろうというのです。そして、それは人類の終焉を意味するものだと。まさに、映画「ターミネーター」の筋書きのような話が、現実の問題となってきたのです。
また、オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授は、別の意味でAIは人間の脅威になるだろうと言っています。それは失業の問題です。オズボーン氏はアメリカ労働省のデータに基づき702種類の職業を分析し、今後10年から20年のうちに雇用者数の47%の仕事がコンピューター化されるだろうと予測しました。もし仮に氏の予測通りになったとしたら、人類の半数近くが失職することになります。私たち人間は何をやって生活していけばよいのでしょう。
もっともこのような心配は杞憂にすぎないという人もいます。たとえばインターネットの父と呼ばれる科学者のヴィントン・サーフ氏は、「歴史を振り返ると、技術革新は雇用を創出しこそすれ、奪うものではない」と述べています。確かに、鉄道や自動車の発達によって馬車の御者や飛脚は仕事を失いましたが、それを補って余りある仕事が交通機関の発達によって生まれました。

今後、人工知能がどれほどの速度で進化し、人間に近づいていくかは専門家にも分かっていません。ただ、ひとつ言えるのは、アトムほど有能ではないにしろ、そう遠くない将来、知能を持ったロボットが社会に入ってきて、人と共に働いたり、暮らしたりするだろうということです。かつて、子どもの頃に夢見たSFの世界が、まさに現実化しようとしているのです。
はたしてロボットは、人間を助ける頼もしいパートナーになるのか、それとも人間にとっての脅威となるのか。
あなたはどう思われますか。ご意見、ご感想をお寄せください。

参考資料:人工知能学会ホームページ

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